工学部電気電子・情報工学科 情報コース

准教授深井 英和

生物や脳のしくみの理解とその社会への応用

脳神経科学、数理生物学、知覚心理学、ニューラルネットワークモデル

科学技術が発展した現代でも、生物、脳、知覚などの分野にはまだまだ未解明なことがたくさんあり、研究対象としての興味は尽きません。私はこれまで、神経細胞の電気的動特性の数理メカニズム、脳の機能的部位間の情報伝達、生物の確率的な行動原理、生物性の知覚、色彩調和に関する知覚など、脳、知覚、生物に関する研究をしてきました。 これらを解析する手法として、非線形力学系とその分岐理論、システム同定、多変量時系列解析、画像処理などを用いて対象を解析すると共に、新たな解析手法そのものの提案もしてきました。
これらの解析手法の数理自体にもそれぞれ大きな魅力があります。 近年ではやはりニューラルネットワーク(深層学習)に関する研究の割合が増えています。いま多種多様な分野で応用されているニューラルネットワークも、 もともとは神経細胞の情報処理の仕組みや生物の視覚情報処理の研究に知見を得て、発展してきました。多種多様な膨大なデータであふれる今の時代、データサイエンスの重要性が指摘されています。
様々なモーダリティのセンシングにより得られた膨大なデータから如何に重要な情報を得るか、それは生物が何十億年もかけてチャレンジしてきたことです。データサイエンスの分野にとっても、生物の情報処理の仕組みから得られる知見はまだまだ尽きません。

途上国支援におけるICTとデータサイエンスの応用

一方、私は2015年頃からのJICA(国際協力機構)による東ティモール国立大学工学部支援プロジェクトへの参画を機に、 ICTや最新のデータサイエンスの手法を途上国の発展に役立てる研究も進めています。途上国では、あらゆる社会的課題に対して我々の知識や技術を役立てることができます。
私が直接参画しているJICAプロジェクトの目的は現地の大学教員を育てることですが、その活動の一貫として、 現地の大学教員と共に「ICTや機械学習といった情報科学の技術を途上国の発展に役立てる」研究プロジェクトを複数立ち上げました。 例えば農業や公共交通機関の運用への応用が挙げられますが、ここでは、それらのプロジェクトの中でも「ICTと機械学習を用いた途上国の道路維持管理の自動化」に関する研究を紹介したいと思います。
東ティモールはオーストラリアの北に位置する小さな島で、紛争を経てインドネシアから2002 年に独立しました。 途上国の発展には各種のインフラの整備が急務です。東ティモールではいまだに国道の半分以上が未舗装であり、 舗装された道路であってもインドネシア占領下に施設された古いものがほとんどで痛みが激しい状態です。 例えば東ティモールでは、地方に行くと両手で抱えきれないほどの量のマンゴーが 100 円程度で手に入ります。 しかし、せっかくのマンゴーも首都までの運搬に劣悪な未舗装路で10時間以上、地方によっては何日もかかるため、 目的地に着くころには柔らかく熟したマンゴーは潰れたりして商品になりません。産業だけでなく、地方では医療や教育に対するアクセスの悪さも大きな社会問題です。 東ティモールでは国土の全主要道路網を整備する計画がありますが、それにはまず、6,000 Kmに及ぶ道路の、 舗装路・未舗装路分類、道路幅の調査、舗装路の劣化具合の調査などが必要です。ところが、これらの調査は全て人の手で行っており、非常に多くの時間と労力が必要で遅々として進んでいません。
専門的な知識を持った人材が少ないことも大きな問題です。先進国で使われているような高度な計測機械はあまりにも高価ですし,使いこなせる専門家もおらず、導入は不可能です。

国の発展を支える、インフラ整備の自動化への取り組み

そこで私たちは、 ICTと最新のデータサイエンスの技術を使った安価な路面状況自動調査システムの開発を行っています。 システムは途上国でも容易に入手可能な、スマートフォンとドライブレコーダとPCサーバーから成ります。スマートフォンでは、 振動センサ情報をシステム同定や機械学習の方法で処理し、路面の荒れ具合の国際標準指標を求めます。
ドライブレコーダの画像からは、画像処理や人工知能の技術を使って自動的に路面性状の分類、ひび割れやポットホールの検出と大きさ推定を行います。 それらの値はすべて GPS情報と共にデータベースに蓄積され,スマートフォンやタブレットや PC を使って地図上で確認できます。
一方、国内でも昭和の高度成長期に建設された道路インフラが耐用年数を迎えているにもかかわらず、地方の人口減と税収入減によって道路の維持管理が今後ますます困難になると言われています。私たちの研究室では、この途上国支援がきっかけで開発したシステムを国内の道路維持管理にも役立てるべく、岐阜県道路維持管理課などと協力しながら国内向けのシステム開発も行っています。